良い詩は、必ず私たちの魂にいきなり触れてくる
 昨年亡くなった詩人の業績をしのびつつ1055頁におよぶ巨大な詩集を謹んで拝読いたしました。


 詩人の中にはことさら難解な言葉や隠喩や暗喩を駆使して、
なにやら高尚な哲学や観念を鼓吹する人もいるのですが、
それでなくても頭の悪いわたしは、
そーゆー頭が痛くなるような格調高い詩篇が苦手なので、
できるだけ平明な言葉をつかって明快に詩の真実が吐露された作品のほうへ近づいていくのですが、
さいわい本書の著者はその種の詩人であり、
かつまたその種の詩であったので、
作者のものいいとそこからにじみ出る詩想を、
素直に味わうことができました。


 詩人の代表作は1977年の「風が吹くと」の中に入っている「祝婚歌」だそうですが、
なるほどこういう教訓詩を若い男女の結婚式で朗読すると、
花も実もある挨拶のようで受けるかも知れませんね。


 けれどもアマのジャクの私は、
ちょっとさだまさしの「関白宣言」を思わせる前半の訳知りの大人の説教めいたくだりよりも、


 生きていることのなつかしさに
 ふと 
 胸が熱くなる
 そんな日があってもいい
 そして
 なぜ胸が熱くなるのか
 黙っていても
 二人にはわかるのであってほしい

 という末尾にはいたく感動し、
この「生きることのなつかしさ」を、
もういちど老骨の手元に手繰り寄せたい、
と思わずにはいられませんでした。


 このように、
いい詩人のいい詩は、
ふだん人々が忘れてしまっている大切な物事を改めて心に刻んでくれますが、
1957年の「消息」におさめられた「burst」の中の

 諸君 
 魂のはなしをしましょう
 魂のはなしを!
 なんという長い間
 ぼくらは 
 魂のはなしをしなかったんだろう

 というフレーズを目にして、
ああそうだなあ、
ホントにそうだなあ、
という気持ちになったのでした。


 良い詩は、
必ず私たちの魂にいきなり触れてくるものです。


 そういえば魂なんてすっかり忘れ果て物置に置き去りにしてきたようだ 蝶人
吉野弘全詩集 増補新版

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